けっこう器用なほうです
てか器用が売りみたいなとこもあります
でも
ちっさな頃からそうだったよ
あれが苦手 というより
完全に無理なんだ
あれと物理だけは完全に無理なんだ
あれと物理だけは・・・
電車の中で 腹が減ったなぁと思ってたんだ
家に帰るやお気に入りのロールパンを口にして マーガリンのホンワリ感に飽きた頃 あろうことか もうひと品欲しくなったんだよ
塩気を帯びた もうひと品が
無理だってことは知ってたし 覚悟の上の行為だった
『でも自分を乗り越える』ってことが 『昨日の自分に打ち勝つ』ってことが
今の俺には必要だったんだ
向かった先は冷蔵庫だった
眺めれば 今の俺に挑めそうな食材は まぁるくて かわゆい あいつら位だった
卵 だった
『目玉焼きの作り方』を知っていた
正確には 仕上がった形状から予測される 製作における行程が想像に容易かった
俺は心を決めた いざ!!
が
開始直後から波乱が起きた
フライパンを熱する時間を長く取りすぎたためか フライパンからゆらりと煙が出始めていたのだ
背中に冷たいものを感じた 焦っていた 卵をまず一つ取り出そうとしたその刹那 緊張と焦りのためか おれは掴む力加減を誤った 無情にも卵は冷蔵庫内でどろりとその中身をさらけ出してしまったのだ
圧倒的後悔
しかし悔やんでいる暇はなかった こうしている間にもフライパンからは煙があがり続けている
大丈夫 予定していた目玉焼きは2つ 運命の悪戯か 冷蔵庫には3つの卵がしたり顔で佇んでいたのだ
卵を扱う力加減は一つ目の犠牲で体得している 残り2つをフライパンへ運ぶ事ができれば 予定のレールに戻せるはずだ
一度失敗したことは繰り返さない
無事2つの卵を フライパン上へと運び込んだ
おれはやった
あとは ようやく眠った赤子を見守るように 好みの固さに達したと感じられるその瞬間まで おれはただその香ばしい香りの中で そっと佇んでいればいいだけだ
つかの間のひととき 息をつき缶ビールを口に含んだその時 目に飛び込んだ一本のボトルが 俺の安息の時をかっさらって行った
何かで目にした事がある フライパンで調理をする際には
『油をひけ』
と
えー できましたー 目玉焼きでーす
世にも珍しい 茶碗に入る目玉焼きでーす
いやーくっつくくっつく あ フライパンにね ガリガリこびり付いちゃってさー
慌ててはがそうとするじゃん
えいって
いやこれは誰がなんといおうが 俺の中では目玉焼きだから
目玉焼きをえいってやりまくっただけだから
ぷすー
しらねーよ
あ
もちろんあれもなかったよ そう 味だよ
味付けしてなかったからね
当たり前だよねー
ぷすー
ゆで卵にすりゃよかったよ
あ でもゆで卵も作れなかったんだよねー 前やったら
鍋に入れるときに 熱ちっっ! って落っことして
割れたまま白身垂れ流しで茹でられた 無惨な卵になっちゃったもんね
あーでもおいら幸せだよね
なんでかって
コックさんに憧れなくてよかったってこと☆
ちーん
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